第II章
段階的なトレーニング


記載 / 2017年04月10日
★「ピアノと向きあう」第II章 段階的なトレーニング 2.18のタッチ

タッチを分類する前に本来考えるべきことを、3月20日、下記のような勉強会で扱いました。
20170320レジュメ

個人情報は省いた部分だけ貼り付けます。
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本日のテーマ
 お伝えした通り、今日のテーマを実行するきっかけは、浜松医科大の講義に於いて「遠位筋」と「近位筋」を実演したことでした。生憎「クラヴィノーヴァ」は予測以上に音量の差も出ず、音色は(多分)一色。本物のグランドピアノでの奏法をお教えしている私としては何とも残念な講義でした。でも対象はピアノを知らない医学生が9割以上、実際に鍵盤を下げる行為だけでも見えればよいか…と妥協しました。
 ふと、これは私のところにいらして下さる皆さまにこそ実演が必要なのではないか、と思いました。勿論本物の「ハンマーアクション」です。どのように操作するか、指導に於いて意識を喚起する場を何度も設けるべき、と私自身を気付かせてくれる結果ともなりました。
 鍵盤の奥に連なるハンマーの動きは、最近ではネット上で構造図を見たり、YouTubeなどの動画で真横から観察することが容易くなりました。どうぞそれらは各自検索の上、詳しくご覧になってください。
 演奏会を控えていようがいまいが、「遠位筋」「近位筋」の意識は常に持つべきです。同時に現代の(つまりダブルリピティション/ダブルエスケープメントを持つ)ピアノのアクションと操作も考えるべきです。長年ピアノを弾いていれば、自然に感情表現と機械操作が一体化しているものですが、たまには意識して考えることも大切です。例えば「指」だけで鍵盤操作を行うにしても、「遠位筋」で静かに鍵盤を沈めるのか(=ハンマーで弦をゆっくり打ち、鍵盤を押さえている限りダンパーは上がっていてもハンマーは少し下がった位置で静止)、前腕も手伝って沈めるのか(=ハンマーの打ち方は少し変わる筈です)、付け根から瞬発力で打つのか(=ハンマーには勢いが付き、すぐに下がり、「バックチェック」で受け止められている筈です)。しかもそれらをミックスして打鍵しているケースの方が多いでしょう。「近位筋」を使う場合にも上腕の重さをかけたままパッセージを弾くのか、上腕を投げることで和音を鳴らすのか、その際にも指は鍵盤から離れて高位置から投げるのか密着して全腕の重さをたっぷり乗せるのか。ハンマーのスピードのみならず加速度にも変化がある筈です。
 1音だけではなく、音群を弾く時には指の離し方や上げ方も関係してきます。つまり弱音でのlegatoではハンマーが弦近くで止まっていますから、それを更にキープしたまま次のハンマーが来て音が繋がるわけです。決してぶつ切りに繋げる訳ではありません。勿論leggieroの表現やチェンバロ的な表現では隙間が上手く入るような工夫も要ります。オクターヴでのlegatoでは、実際には前後の音が切れてしまう音群も、音量にグラデーションを付け、ペダリングも手伝って「繋がって聞こえる」工夫をしていますね。
 それらは多分「ピアノと向きあう」の18のタッチの組み合わせにもなろうかと思います。
 一度、楽器店で鍵盤の中を見せて頂き、試弾出来る勉強会も行いたいです。でもそれ以前に、どのような感情を持ち、どのような心象風景を描くか、その為には…という順で考えて頂きたいです。「音量の数値化」は、決して起伏を数字で表すだけではなく、音量を整理するひとつの手段にすぎません。
 これらはDynamikに限ってであり、他にAgogikも考えるべきですが、これは又の機会に致しましょう。

その後、本番を控えた方々の通奏と、一人ずつ「遠位筋・近位筋の使い方」を考えたレポートを互いに配布の上、練習中の曲を試演。

記載 / 2014年11月15日
★「ピアノと向きあう」第II章 段階的なトレーニング 2.18のタッチ

レッスンやメールで質問を頂きます。「この部分は18のタッチのどれで弾くのですか?」と。
18種類に分けましたのは、基礎的な練習として18種類をまず練習して頂きたいからです。
どうか第30ページの上半分をお読み下さい。18色の絵の具の存在であること。そのまま使うこともありますが、寧ろ混ぜ合わせることの方が多いこと。ただ基礎として18色を持ち合わせていないと豊かな音色は作れません。他の箇所にも書きました。第63ページ下の部分や第73ページ下から次ページ、他、何度も念を押してあります。
大切なことは「どのように表現したいか、どのような音色やニュアンスで弾きたいか」という具体的な姿を描くこと。そのための手段を考えることです。


記載 / 2013年06月30日
★「ピアノと向きあう」第II章 段階的なトレーニング 7.音色・ニュアンス・グラデーション ー レガート

・【C】のタッチが難しい、と大勢の方に言われます。それで又しても説明を続けます。
著書は、ある程度ピアノが弾ける方や先生方を対象としておりますので、【A】【B】の指の強化から書き始めました。
が、初心者の場合は全く別です。
例えば幼いお子さんが初めてレッスンに来られる場合。
譜読みその他の話題はさておき、指についてだけここでは述べます。
鍵盤を押し下げることが出来るようになったばかりの小さな、しかも軽い手では、本当に「押し下げる」ことに精一杯です。第3指は下げることが出来ても第4指や第5指は浮き上がってきてしまうかもしれない、そのような手です。
根気強く「押し下げる」だけ。お子さんにもよりますが、1本ずつ10回位ずつ。もし第2、第3指は可能だが、第4、第5指は不可能、という場合には可能な第2、第3指だけ練習しても構わないと思います。悪い癖を付けてしまうことだけは、どうしても避けたいです。
(この時点で、強い筈の第2、第3指も押し下げられない場合は、おそらく時期尚早、何ヶ月か待ってみることです。別な角度から音楽に触れていればよいわけで…。耳を肥やすことや、一本指で五線上の音符と鍵盤の位置を繋げる練習などもできます)
押し下げられる場合、指の付け根が陥没しないこと、どの指関節も陥没しないこと。小さな手ですから、第5指の練習では第5指が鍵盤を下げやすい向きにします。そして上記の(執拗ながら)付け根の関節も第1、第2関節もつぶれない・・
それだけです。押し下げている指を離す時には、自然に鍵盤に押し上げられるように離れるはずです。
これが結果として【C】のタッチなのです。(勿論お子さんには「【C】のタッチ」などと分類しません)
この時、鍵盤が下がらないから、と無理矢理力んで強引に押し下げたり、手首も手伝ってガクガク揺らしては駄目です。付け根から先だけで押し下げます。 根気強く毎日続けた場合には「いつの間にか」出来るようになり、次は隣接する指を交互に。数週間後には「ドレミファソファミレ」の反復が出来るようになるはずです。しかも美しいレガートで弾けているはずです。
このような練習でスタートした子供たちは一旦色々な事情でピアノを中断したとしても、再開する時には無理なく無駄なく自然な手で弾けるケースが殆どです。


記載 / 2013年06月11日
★「ピアノと向きあう」第II章 段階的なトレーニング 7.音色・ニュアンス・グラデーション ー レガート

・【C】と【D】のタッチは、余りに指を動かすことにのみ追われてしまったケースには必須です。
けれども、ピアノに初めて触れた時や練習を開始した時には、本来【C】になっているはずです。この状態で指関節どれもが凹まないことの観察に指導する側は細心の注意を払います。最初にこの方法で練習をした人、それも次の段階に行く前に徹底して身に付いている人は、とりたてて【C】で練習をすることは不要になるはずです。

記載 / 2013年05月09日
★「ピアノと向きあう」第II章 段階的なトレーニング 4.脱力の意識

・第35〜38ページに、3通りの脱力方法を記しました。これらは私自身が見つけた方法であり、どうか読者の方々もご自分に一番相応しい方法を見つけることをお勧め致します。
それと同時に、難しいのは「脱力」のみに集中し、肝心な指までブラブラ状態になり、音が出なくなってしまうことです。そのような場合には拳固を作り、それもしっかり握りしめ、それでも肩から先をぶらりと下げていられるか、又、拳固以外を自由にブラブラと動かせるかどうか、確認してみてください。例えば、第37ページの写真ように上半身をブランと垂らし、この状態で拳固を作る、指はしっかり握りしめ、或いは1本ずつしっかり動かしてみる、けれども垂らした上半身はブラブラのまま、前後左右に身体ごと移動しながら「ブラブラ状態」と「指の定着」とを同時進行させるのです。拳固のようなしっかり固めた指で力強く打鍵することも、曲中には多く出てきます。
・鍵盤に手を乗せて【A】や【B】でHanonやPischnaを練習している時に、手首や腕を自由に動かせるかどうか確認することも大切です。
(可成り重複して書いております。言葉遣いは違いますが)


記載 / 2012年07月08日
★「ピアノと向きあう」第II章 段階的なトレーニング 7.音色・ニュアンス・グラデーション ー レガート

・第49〜50ページ(【C】【D】の応用)
まずはハノンのような練習曲を使って、色々な音の組合せであっても指〜腕の重さのコントロールをしながら強弱を付けられるようにすることから始まります。けれども、これは最終目的ではなく、「心象風景」を表すための手段であり、心理的なものと結びつけなくては無意味に終わります。ブルクミュラーの「素直な心」は一例で、他にも「自分にとって易しすぎる」という位の曲を選び、心と一体化させる練習をなさってください。楽譜には印刷されていない「心」の部分の強弱です。


記載 / 2012年05月27日
★「ピアノと向きあう」第II章 段階的なトレーニング 6.打鍵力・瞬発力 更なる補足

・【A】での第2関節について5月1日に補足しましたが、更なる補足です。
タッチの種類以前に、第2関節が陥没してしまう指の場合です。
年齢に関わらない対処法すが、特にまだ筋力も腱力も無いに等しい小さなお子さんでは尚更です。
勿論【A】はまだまだ先の話で、まず【C】で、どの関節も自然に曲がっている形で鍵盤を下げる訳ですが、その折にすら陥没してしまう場合には、ピアノとは別に、空中で手指を伸ばした形を作り、指の付け根は折らずに第2関節から先だけを曲げます(勿論第1関節も連動して曲がります)。最初は可能なところまでで構いませんが、ピタッと「指と手のひらの境あたり」まで指先が付くように曲げ、又伸ばして曲げる、という反復を5〜10回行ってみましょう。「痛くない範囲」です。慣れたら回数は増やして構いません。※
この反復で第2関節がしっかりしてくる筈です。勿論一朝一夕に出来ることではなく、月単位・年単位の話です。
(第1指は曲げずにそのままの位置で伸ばしていて構いません)

・指の付け根の陥没も同様に、ギュッと「グー」の形を作り(つまり拳固ですが…)、しっかり指の付け根の関節が出っ張るように何度も握ってみましょう。

小さなお子さんの場合に一番大切なことは、日常生活で握力を付けることです。ボールを掴んだり、鉄棒にぶら下がったり、また食器を運ぶようなお手伝いはさせたいものですし、その時に親御さんが指の形を確認出来ると更に良いと思うのです。折角ピアノで「正しい形」を作っても、日常生活で違う方向に行ってしまっては勿体ないです。鉛筆を持つときの第2指の陥没も気を付けたいものです。

第2関節が陥没しない方は、やらない方がよいでしょう。
小学生辺りで皆さん遊んだ記憶があると思うのですが、第2関節を直角位に曲げ、第1関節を伸ばし、もう片方の手でその曲げた方の指先を触ると「プラプラ状態」になっていることを確認できますね?この状態に慣れてしまって鍵盤を下げようとしたら第2関節が曲がりすぎ、第1関節が陥没するという悪い癖が付く可能性があります。




記載 / 2012年05月01日
★「ピアノと向きあう」第II章 段階的なトレーニング 6.打鍵力・瞬発力

・【A】のタッチについて
第42ページの「指先が鍵盤に食い込むがごとく力強く」という文だけに目が行きますと、大変きついタッチのイメージを抱きますし、大変なトレーニングに思えます。けれども、ページの下の方、②に「せいぜいその人にとってのp位だと思います」と書いたように、最初は鍵盤を下げることすら困難な方もいらして当然です。特にお子さんや細い指の方はなおさらで、「鳴れば合格」というほどです。
また、その前の①に「そして第2関節はできるだけ曲げないように」と書きました。あくまでも「できるだけ」であります。その理由や、その際の注意事項はその直後に記しております。
その前のページの写真で、第5指の第2関節が伸びきっているため、誤解を生じているかもしれませんね。日本人の小さな手では、第5指はオクターブの時にこの様な形にならざるを得ないため、第5指は特殊です。
場合によっては、楽器は最初使わずにテーブル・机の上で試すことも(つまり力学的に、下げたら上がる圧力を受ける「鍵盤」ではなく)試す価値はあるかもしれません。

・【A】~【D】のタッチの練習順について
この本は全くの初心者が独習するためのものではありません。タッチの種類は練習方法として列挙しました。けれども、この順番で誰しも練習して頂く訳ではありません。初心者にいきなり【A】や【B】は不可能です。まずは鍵盤に指を乗せて押し下げた時にどの関節も安定してつぶれないことが最優先されます。寧ろ【C】に近いタッチでしょう。安定した自然な形の指で鍵盤を押し下げられるようになり、ハノン的な練習も出来るようになり、腕の重さをかけても(つまりは【D】に近いタッチ)指が潰れずにある程度のテンポで弾けるようになりましたら、それから【B】をマスターする順番です(そこに至るまでも人それぞれで、月単位の場合も年単位の場合もあります)。その際に、指の第1関節が潰れやすい場合には、【A】を早いうちに併用すると潰れる癖は起きませんし、起きても治ります。最初は潰れ易い指だけでも実行なさることをお勧めいたします。

・【C】のタッチについて
第48ページ上の方に、「隣接する2本の指交互に音を出します」に書きました。
この2本ずつの交互は、そのページの下の方に書いたように「歩く模倣」がよいのです。ただし(いずれ動画で示したいと思いますが)、鍵盤は下げても音の出ない数ミリの部分があります。つまり音を出した後にゆっくり上げれば途中で音が消える部分です。それを考慮に入れ、交互に音を繋げるには、その音の出ない場所も指で味わいますが、上まで鍵盤が上がってから次の指を下げるのではありません(1本ずつのトレーニングの時には、鳴り止んだ後も鍵盤の圧力を感じてゆっくり押し上げられるべきですが)。上がり切る前、つまり音が消える部分まで鍵盤が上がる前に次の指が音を出さなくては音が途切れてしまいます。大抵は前の指が鍵盤の底を感じてから次の指を下げ始める感覚です。ただ、ハーフタッチというものもありますので文章での説明は難しいです。
いずれにせよ感触と繋がり具合を耳と共に味わえる方向で練習なさってください。音符ごとの微妙な音量差(腕の重さの使い分け)も相俟って、美しいレガート奏法を習得なされる筈です。






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