第IV章
心象風景を音にするための小品


記載 / 2016年8月29日

★「4.ポリフォニー」

J.S.バッハの2声のインヴェンションを使い、生徒たち(音大出身であったり、ピアノ教師であったり)は謙虚な姿勢で「ポリフォニーの基礎」に取り組んでいます。
以下は2016年7月に行った勉強会の記録です。

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プログラム内容は以下;
《J. S. Bachの前に》
 バッハの「インヴェンションとシンフォニア」を弾いて頂く前に、古典派以降の音源(ほんの部分)をお聴き頂きます。それも世界の大ピアニスト達による演奏です。譜例をお配りします。それを見ながら聴くことで、「アーティキュレーション」「フレージング」「デュナーミク」「ポリフォニー」をメインに意見を述べてください。
 バッハを原典版で読み、演奏する過程は、あたかも全部ローマ字で書かれた文章を仮名文字と漢字に変換し、句読点を付けて整った文章とし、更に相応しい抑揚を付けて朗読する作業にも似ています。ベートーヴェン以降になれば、既に整った文章になっている訳ですが、如何に的確な読み方をされているか、演奏者の個性は十人十色でも、疑問を抱くような例は良くありませんね。

《インヴェンションとシンフォニアのこと》
 解説本や参考書の類に記されている内容は割愛します。但し、よくある誤解と言いますか、間違って理解されがちな事柄や演奏に於ける詳細は別紙をお読みください。質問もどうぞ。
 本来「簡単な曲」と思われがちな「インヴェンション」です。今も昔も少なくない例を並べます。
・ 幼い頃、本来インヴェンションを学ぶ前に弾くべきポリフォニー曲も弾かず、いきなりインヴェンション。しかも一通り番号だけ進めて終え、結果バッハのポリフォニー曲は難しくてイヤだというイメージを持った。
・ 音高や音大の受験に向けて、本来じっくり取り組むべき2声のポリフォニーすら学ぶ時間が無くなり、基礎も置き去りに平均律の課題曲に進み、卒業後には2声のインヴェンションすらろくに弾けない。
・ 2声では左右の手を1本ずつ使えるので、ペダルは不要。ところがタッチの種類が乏しいために、音が裸になる2声は楽しんで弾くことが出来ない。「3声」は素晴らしいのに「2声」はどうして?という例が多いのは、ペダルに頼れず、タッチがワンパターンだからなのでしょう。
・ 古典派以降の曲にも活かされるべきポリフォニーやアーティキュレーションを疎かにしたが故に残念な結果となる(海外の著名な演奏家でも)。

その後、一人あたり約6曲ずつインヴェンションを演奏して頂き、コメントを挟みました。 以下は「こんな基礎に戻るの?」というレベルの配布プリントから;

 メインのプリントに「その1」と書きました。とても1回でこなせる内容ではないからです。
 先ず、ひと昔前とは言え、既に戦後の日本でのバッハの教え方を振り返ります。
誰が始めたことかは知りませんが、チェルニーも30番練習曲のレベルになると、バッハのインヴェンションを学習すべきだ、と偉大な教師たちは皆主張しました。(「30番練習曲のレベル」すら、テンポも指の動きも怪しいものですが…)
楽譜も乏しく、勿論原典版はありません。ペータース版、それもチェルニー先生中心の校訂版が最高の存在でした。やがてそれがコピーされて日本でも出版されるようになったのでしょう。

戦後最新のPeters版

楽譜に印刷されたフィンガリングとスラーやスタッカートを忠実に守るべく指導を受け、2声が終わると3声、というのが普通だったのではないでしょうか。当時は3声も「インヴェンション」と呼ばれていました(ペータース版も)。
学習方法は、テーマ探しに終始する。しかも同じ音型を見つけ、はっきり弾くのです。レベルにもよりましょうが、大同小異だったのではないでしょうか。
装飾音もいい加減でした。
ペータース版での装飾音の奏法一覧。最近まで通用していたのですから唖然ですね。

Peters版の装飾音
(クリックで拡大ください)


自筆譜による一覧(W. F. Bachによる)

自筆譜の装飾音


現在は原典版に於いて正しく表記されています。

現代の版による装飾音


 装飾音の更なる説明は、『ピアノと向きあう』の中、「第VII章 3. 装飾音」をお読みください。プラルトリラーの「上から」「下から」その他、制限文字数内ながら丁寧に説明したつもりです。

 話を演奏に関しての「時代の流れ」に戻します。
 バッハのピアノ曲はチェンバロのために書かれたのだから、とチェンバロの模倣に走る傾向が主流の時期もありました。インヴェンションとシンフォニアは、明らかにチェンバロ的に弾くことが好ましい曲もありますが、寧ろクラヴィコード(とても音量の小さな、しかも指によるヴィヴラートも僅かにかかるような楽器)のために作曲したものもあると思いますし、或いはオルガンを頭の中では鳴らして書いたではないか、というような曲もあります。

 今は漸く現代のピアノの可能性を活かす方向が当然となりました。
 1970年頃、スヴャトラフ・リヒテルが平均律クラヴィア曲集全曲のLPをリリースしました。私が伴奏をしていた友人(ソプラノ)の兄上が出版に携わり、試験での伴奏のお礼に「一枚目」を頂きました。まだジャケットも試し刷り状態ながら、「これはそのうちセンセーションを起こすと思うわよ」と言われたのは本当にその通り!ソ連の凄さと言いますか、西に知られていない東の教育を垣間見る思いがしました。貧しい東の世界で、芸術家の生活は優遇されていたのですね。国際コンクールを受けるにも、「町での優勝者」が「州での参加」を認められ、優勝すると連邦での参加を認められ、更にソ連全体での入賞者が国際コンクールの受験資格を得た、と聞きました。ですから、「ソ連人の来ないコンクールを受験しよう」が合言葉となったことも頷けます。
 教育の1つに「重力によるレガート奏法」がありました。今ではごく普通になったことですが、当時のリヒテルの演奏で驚いたのは、何よりもこの指による完全なレガートでした。現代のピアノでのアーティキュレーションを見直す機会となったことも否めません。  けれども、アーティキュレーションはどうあれ、最終目的は、バッハの音楽と言いますか精神を通じ、自分の心を表現することです。どのような精神?どのような心?・・・

 ところで「インヴェンション」(ラテン語単数:Inventio)という言葉の意味です。辞書を引けば「発明」とか「工夫」などという日本語が出てくるかもしれません。バッハのインヴェンションは「ちょっとした思い付き」であり「即興曲」「アンプロムプテュ」という意味合いがあります。「線的な作曲手法による小品」という以上の限定はありません。
「2声インヴェンション」15曲を大雑把に3つのグループに分けてみましょう。
調べてください。

①フーガに近いもの(あくまでも「近い」)
つまり厳密ではないにせよ、決まった対位句が存在する。


②片方の声部がメインとなり主題を含むメロディを提示、もう片方声部はモチーフを使っての相槌。それが上声と下声(つまり右手と左手)の反転や、モチーフのみの発展を通じて、主題の徹底(印象づけ)を行う。注意すべきことは、モチーフの細切れ発見に気を取られ、羅列状態にならないことです。


③カノン


この「カノン」が8割の方が誤解されるので(解説本にも責任あり)、パッヘルベルをお配りします。3つのヴァイオリンが2小節遅れで全く同じ旋律を再現する「カノン」です。「かえるのうたが きこえてくるよ」のように。2小節遅れで違う旋律が出る訳ですが、それをその都度「新しい対位句」とするのは如何なものか。寧ろ、2小節ずつの「フレーズ」「旋律」と捉え、練習するための便宜上、「第1フレーズ」「第2フレーズ」・・・と自分のために名前を付けることは良いのですが、あくまでも「1つの長いメロディ」です。


2声のインヴェンションの何が勉強になるのか、疎かにするとどのような「欠点」が露呈するのか
① タッチ
2声ですから、左右の手それぞれ単旋律を弾けます。左右の独立したフィンガーレガートや曲想に応じたタッチの使い分けです。

② 強弱
2声に限りませんが、声部ごとに違うデュナーミクで表現する。2声では「両手が同じ表情で弾く箇所の方が少ない」と思って練習すれば良いですね。

③アーティキュレーション
左右が丸見えになります。結局左右のデュナーミクの独立に頼ることが大きいです。

④ペダリング
2声ですから必要ありません。指でのレガートの練習曲にもなるほどです。ただ繋がらない同音連打や二段チェンバロ用の交差などの箇所で、うまく「繋ぎのペダル」を使う程度です。或いは強調したい音に軽く(短く浅く)使う程度でしょう。


「3声シンフォニア」15曲も分けてみましょう。
 因みに、シンフォニアは「sin-fonia」(多声の調和。昔はSymphoniaの綴りだった筈ですが…)、同様に訳せばHarmoniaとなるようで、宇宙での「響き」「調和」の意。単なる3声の調和というよりは、当時のルター派による教会の3つの調和(父、子、聖霊)とも言えるのかもしれません。詳しいことは文献を調べなくては正確に述べられませんが、当たらずとも遠からず?
 教える立場で感じることですが、よく「インヴェンション」を一通り終わらせて直ぐに「シンフォニア」をさせてしまう教師の存在です。そして「バッハ嫌い」を作る。声部が1つ増えたからといって難易度が1.5倍になった訳ではありません。曲によっては、平均律クラヴィア曲集の3声フーガより難しいものもあります。インヴェンションすら難しく感じる子供が殆どです。その様な子供たちには、インヴェンションの前に「プレ・インヴェンション」的な曲集や、「アンナ・マグダレーナの音楽帳」「小プレリュード」の易しいものをさせてみるのも一案です。年齢にゆとりがあれば「インヴェンション」は遊びで弾けるほど何度も繰り返したいものです。「シンフォニア」は難しくて当然ですから、その前に「小フーガ」をさせてみるのも一案、「シンフォニア」は最低2ラウンド学んで、漸く身に付くものです。楽に弾けるようになってから「平均律クラヴィア曲集」に進みたいものです。

 話を戻します。
シンフォニアでは「フーガ」に出てくる手法が多く見られるようになります。
つまりDux(主題)、Comes(応答)、Kontrapunkt(対位句)が揃った曲が多くなります。

 先ずは「フーガ的なもの」と「そうでないもの」、特殊なものとしては「装飾音の練習曲」が挙げられます。
装飾音も「指の器用さ」が求められますが、まずは感性でしょうか。シンフォニアのEs-durで身に付けてしまえば、逆にインヴェンションでの問題も解決します。まさに「即興曲」のように楽しめます。BWV 778では第6小節右手には「G」が多すぎて表現に戸惑います。長いトリラーはリバットゥータのように弾けば面白みも出てきます。


 一度に扱えるものではないため、練習方法や奏法は又改めて詳しく述べたいと思います。まずは、1つの声部ずつ練習してメロディとして楽に記憶することや、2声のインヴェンション以上に独立したデュナーミクや抑揚、アーティキュレーションが求められます。  注意事項も2声のインヴェンションと変わりありませんが、ソプラノ、アルト、バスの3声ですから、2本の手では足りずに真ん中の声部をどのように取るか。レガートで弾く為には繋ぎの短いペダリング技術も必須です。ペダリングの未熟さが原因で4声、5声になってはいけませんね。
手のコントロールの前に「耳」だと思います。

11月に行った勉強会の表紙です。
2017:11月勉強会

(今日はここまで/奥 千絵子)




記載 / 2016年4月11日
「ドイツ舞曲」か、はたまた「レントラー」か。
某SNSで得たURLを貼り付けます。
どこに載せるか迷いましたが、下方の「レントラー」とも関連するので、この第4章に加えておきます。
作曲家達が生活していた頃の年代をご覧になってください。

3分間で1000年の国境の変遷を見る!

ヨーロッパでは、戦争を繰り返すたびに目まぐるしく国境線や国の名前も変わる時代。(はるか下方をご参照ください) たとえどんなに国名や変わり、「ドイツ舞曲」という名前が付けられなかったとしても、その土地に昔から根付いた踊りというものはあったのではないでしょうか。それがレントラー(Ländler)という名が付けばオーストリア〜スイス辺りに根付いてきた踊りだと思いますから、長閑なヨーデルやうっとりとするリズムです(下方、2012年頃にアップした地図やThe Sound of Musicの1シーンもご参照ください)。 又、シューベルトは殆どウィーンやウィーン周辺の保養地と言われる土地から一歩も出ていません。今でいう「オーストリア」でしか生活したことのない作曲家です。所謂現在「ドイツ」と言われる国も、かつてはオーストリアも含まれた「神聖ローマ帝国」を意味した時代もあります。ドイツ舞曲が軍事国家の舞曲を示すのか、その土地に存在していたレントラーを示すのかは、言葉の問題の気もします。日本のような殆ど国境線が変化しないに等しい島国とは全く違うのですね。でも一例ですが、それも思い出したくない一例ですが、沖縄がアメリカになっても日本になっても琉球国家であっても普遍的に存在する琉球の楽器や歌・音階と同様で、LändlerはLändler!!と思っている次第です。


記載 / 2016年2月11日
★第122〜123ページ
「ないしょ話」の中の4つの譜例は、はるか20年昔、1996年3月19日に開催した生徒達の発表会「練習曲へのお誘い」(私のミニレクチャー入り)にて扱ったことを思い出し、カセットテープからコピーしました。その部分だけを切り取ることが私の技術では困難で(機械も古い、と言い訳)、お聞き苦しいかもしれませんが載せてみます。
 第122〜123ページの譜例を含む音源

★下の2012年6月の記載の頃に収録しました「名曲への序章」で、この第4章のブルクミュラーに関する内容(但し「25の練習曲集」)は網羅されていると思います。お買い求めの上、分厚いブックレットをお読みになりながらお聴き頂けることを願っております。ブックレットは厚さに限界がありますから、出来るだけ用紙を薄く、フォントも判読可能なまで小さくして頂き、28ページに及んでおります(チェルニー30番練習曲も含めてですが)。
その「名曲への序章」に収めきれなかった内容や、頂く質問には、左メニュー一番下のアイコン「CD 名曲への序章」の中へ、更に記し続けております。上の音源(1996年)の中の「清い流れ」と「何処へ」を合体させたら面白いだろうな、と思い続けていたことを2013年に実行、一番下のアイコンからお聴きください。

CDの音源サンプルをどうぞ。第14曲「シュタイヤー舞曲」です。
 CD「名曲への序章」より「シュタイヤー舞曲」


記載 / 2012年6月14日
★再び第118〜119ページ 「シュタイアー舞曲」

・民族衣装、と記しました。
写真をここに載せようとしたのですが、枚数多く、申し訳ありませんがブログにアップロードしましたので、こちらに移動の上、ご覧ください。

このサイトに限らず、リンク先も転用禁止にて。

レントラーの動画で踊りのステップが分かるものを載せてみます。(同じレンタルサーバー内なので可能かもしれません) [広告] VPS

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©1965- Twentieth Century Fox Film Corporation and Angyle Enterprises, Inc.

・シュタイアー(シュタイヤー)の件
オーストリアにシュタイアーマルク(Steiermark)という州があり、州都はGraz(グラーツ)です。州の北西はザルツカンマーグートに接しています
地図はブログに載せましたのでご参考になさってください。
他にカタカナで書けば同じシュタイアーがありますが、こちらの綴りはSteyrでLinz(リンツ)のすぐ南。Oberösterreich州です。

記載 / 2012年6月7日
★ブルクミュラーの楽譜で話題になったことですので、ここに記載しておきます。

何の曲に限らず大変困る問題の1つに、版によって小節番号が統一されていない、ということがあります。
ブルクミュラー「25の練習曲集」から例に挙げます。(あくまでも例えば、ということです)
【第11番の「せきれい」】
「1番括弧・2番括弧」の1箇所があります。実際の楽譜のページ番号を書くに留めます。
・昭和20年代のEdition Petersは小節番号が付いていません(これは解説が無いので不必要だったのでしょう)。
・Copyright renewal assigned, 1930,1931と書かれたSchirmer版も小節番号がありません(同上)。
・全音楽譜出版社 / 北村智恵(校訂・解説) これは演奏する上での順番として、正しい小節番号が振られています。つまり、1番括弧は繰り返して弾くわけで、その小節は第22小節になります。2番括弧の最初も第22小節と数える訳ですから、1番下の段の「24」と振られている小節数はその通りです。(演奏上での小節数)
・音楽之友社 / 春畑セロリ(解説)・江崎光世(協力) 2012年第21刷 この版では1番括弧を22と数え、2番括弧を23からと数えていますから、上記(全音)の「24」と振られた箇所は「25」になっています。これは、どの小節にも「番号」がある、という意味で便利です。
・ウィーン原典版・音楽之友社 / 種田直之(校訂・助言・指使い) 1番括弧が22、2番括弧の最初も22と数え、これも全音と同じで「演奏上での小節数」と言えましょう。
・SCHOTT 版 この版では1版括弧・2番括弧が抜け落ちている為、本来の1版括弧を弾いてから本来の2番括弧に続き、とてもおかしな状態となっています。これは困ります。

何故このような状況が起きるか、ということは、多分楽譜を入力するソフトによる違いでしょう。
例えば、私が使っているFinale(但し最新ではありません)では、やはり1番括弧を数えて、いくら2番括弧も同じ小節番号、と書き換えたくとも数字はそのままになり、つまりは上記で言えば音楽之友社2012年第21刷と同じ状態になってしまいます。
まだパソコン入力が存在しなかった時代は、普通に数字を印刷すれば済んだものが、パソコンソフトが数えてしまう。
最新のソフトでは改善されている、或いは、統一されていることを願っています…

実際、どちらが正しいのかは知りません。
練習だけしている場合には、小節番号がどうであれ構わないのですが(Schottのような例は困りますが)、レクチャーその他、色々な版を持ち寄った方々で話を進める時、又解説する時、どの版を使おうとも小節番号は同じであって欲しいものです。

また、「D.C.」なのか「D.S.」なのか、という問題もあります。 作曲者の手書き譜が残っている場合には解明が付くのでしょうが、存在しない場合(この曲集も例外ではなく)、走り書きにより「C」「S」の判別が付かなかった、或いは本来の「D.S.」のセーニョ記号を書き忘れた為に「D.C.」扱いした、という例も無きにしも非ず。これらは推測です。


記載 / 2012年6月6日
★「ピアノと向きあう」第IV章 第110ページ
12行目の「最新版の和訳」は、原稿を書いていた2008年当時の全音楽譜出版社、北村智恵氏による標題です。他にも音楽之友社から新しい訳を伴った版が出版されていますし、ウィーン原典版では種田直之氏による和訳がなされています。
例えば、北村智恵氏による第8曲の「優しく美しく」の訳や、第14曲に( )で添えられた「アルプス地方の踊り」という説明は、それ迄小さな生徒たちに説明が困難だった先生方(勿論私も含め)に大きな助けとなります。
1970年代に、NHKテレビの「ピアノのおけいこ」に於いて、井内澄子先生が「せきれい」の動画を番組の中で子供達に見せていらしたのが、とても鮮明に残っています。
私が本に説明した(第118ページ)「レントラー」という踊りや民族衣装も百聞は一見にしかず、記載した「ザ・サウンド・オブ・ミュージック」の他にも、便利なインターネットをお使いになって検索なさることをお薦めします。
勿論この曲集の標題について、仏語に堪能な方はオリジナルからのイメージを生徒さん達に話されることがベストだと思います。また、独訳、英訳も版によって異なり、ウィーン原典版の他にペータース版、ショット版などとの比較もとても興味深いことだと思います。
ブルクミュラーはフランスに於いてフランスの子供達の為にフランス語のみで標題を記した訳です。日本に於いて日本の子供達を指導する時、それも年齢や環境によって理解も違いましょうし、曲想の理解へつながる言葉は、惜しまず説明することがとても大切だと感じます。

今年リリースする、チェルニー30番練習曲集全曲とブルクミュラー25の練習曲全曲のCDへのブックレットには、この2つの練習曲集について極力詳しく書きたいと思っておりますが、ページ数も限られます。大切なことは何度でも何処ででも述べたいのですが、書き切れないことが出た折には、それらも此処に移行させたいと思っています。

★同上 第111ページ
「パストラル」の第5行目、「両方に慣れるよう、繰り返し記号の中は…(略)」の部分ですが、あくまでも「両方に慣れるように」という練習方法です。
タッチ【C】【D】は、前提としてリラックスした手の構えがあり、音群を弾く時には、どの指もどの関節も余計な力を入れずに次々重さを伝えて行きます。また「補助動作」も必要です。次に使う指が弾き易いよう、つまり重さもコントロールし易いよう、打鍵前に手首や腕を使って指は移動して行きます。その補助動作も手の形や大きさによって異なりますし、フレーズの歌い方によっても異なります。少なくとも記載した2種類で練習すれば、成長・進歩と共に応用が利くようになります。何年か経ち、再度弾いた時には「新しい弾き方」「新しい補助動作」の発見があることと思います。決して2種類を使って人前で弾かねばならない、ということではありません。


記載 / 2012年5月26日
★「ピアノと向きあう」第IV章 第120ページ
「重音の練習1,2」

指を瞬発力で素早く上げ下げすることが大切です。けれどもその際に余計な力は一切抜いてください。特に保持音は押さえた後、即刻緩めることに尽きます。

譜例の16分音符はテンポはゆっくりと、けれども素早く瞬発力で高位置まで上げ、その位置に2つ数える位留めますが、その時に力を抜いていること、またその後瞬発力で鍵盤を打ちますが力むことのないように。その後2つ数える位鍵盤を押さえ、やはり力は抜いていること。音色をよく聴けば余計な力は抜ける筈です。
又保持音も力を抜いて押さえていることが大切ですし、寧ろ浮き上がってきても構わないほど脱力は大切です。
これは、もっと進んで「ピシュナの練習曲」をさらう時にも言えることです。保持音を押さていることに必死になり、指の上げ下げまで力んでしまうケースが多いのです。力んでしまうと次に使う指は打鍵のスタンバイが出来ません。ともあれ保持音の脱力が大切です(浮き上がってしまった場合は、その鍵盤の位置に留まっているだけでも構わないほどです。いずれ慣れれば脱力と下げていることの両立が可能になります)。
動かす指も余計な力は使わず独立することですが、この譜例の練習では保持音の脱力にもよく注意してください。重音が苦手な方は特に気を付けてみましょう。この曲も、上の音を強く出せばよい、という訳ではなく、バランスとして上の音を美しく響かせ、しかも表情豊かに弾くことですから、いつでもリラックスしていれば「次の音の音色へのスタンバイ」が可能です。

チェルニー(どの練習曲集であれ)の伴奏型での、一見易しいと思う保持音もです。勿論16分音符や32分音符を弾きながらの保持音も同様。

ひいては「ショパンの三度のエチュード」が弾けることにも繋がります。





第3章同様、1996年3月19日の「練習曲へのお誘い」の音源の中に、ブルクミュラー「25の練習曲集」「18の練習曲集」を使い、音と言葉で「本来の練習曲の役割」を述べました。
これもいずれ、第3章同様に音源をコンパクトに編集してアップロードしたいと思います。
可成り時間を要しそうですので、どうか気長にお待ちくださいませ。



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