第V章
より広い表現へ


記載/2018年7月22日
(2回分まとめて記載)
20180707勉強会表紙  20180722hyoushi.jpg

《音楽として仕上げるための最低限必要な基礎練習》
◆最低限の指練習は必要
*【A】と【B】でのHanonやPischna
*曲の部分を使って自分用のワンセットを作る。(最低限【C】【D】【E】【F】【G】【H】【M】の曲例)
◆作品も、まずは「リズム練習」(P.145〜)
 記した通り、最初は「リズム練習のためのリズム練習」にならざるを得ないケースもあります。これは練習することで(特に両手)マスターするしかありません。
 大切なのは、P.148〜の「曲想のためのリズム練習」です。ともかく聴き手に自分の思い、作曲家の思いを伝えることが練習の目的です。指が動くようになったなら、日頃気をつけている「バランス」「強弱」「起伏」「音色(タッチ)」、時には「ある程度のルバート」も意識すべきと思うほど、仕上がりの像でリズム練習をしなくては「機械演奏」になってしまいます。
◆メトロノームを使った「三倍遅いテンポから」の練習(P.293〜)
 これも、ただ三倍遅くから、ということではありません。メールでお送りした井内澄子先生の書かれた「親と子のピアノ教室」では、ドイツ語の「Zeitlupe」という単語が使われています。「時間の虫眼鏡」です。この表現も英語の「スローモーション」も、何と言い得て妙! 「リズム練習」と同様、仕上がった時に「かくあるべき」音色、強弱、起伏、タッチ、そして心を拡大して練習すると、全部の音に対して神経の行き渡るテンポ、少なくとも三倍遅いテンポ、或いは四倍遅いテンポになる訳です。時には顕微鏡。
 そして徐々にテンポアップしていく訳ですが、私が「実際のテンポに近付くに従い、ずらす箇所も意識してルバートをかけて」と指導します。すると多くの方は不自然なrit.を多用。又、メトロノームを全く無視して、基本となるテンポも忘却の彼方。メトロノームに耳を傾けず、まるで崩れた豆腐のように曲の原型がなくなってしまうのです。フレーズの移り変わりの箇所も仕上がり状態を無視、ずれたらずれっ放しでメトロノームで言えば20も30もテンポダウンしていても気付かない。これをレッスンで修正していては3時間かけても4時間かけても直りません。チェックはしますが、練習は家で納得の行くまでお願いします。

★第V章 《 効率の良い練習方法 – リズム練習 》
タッチとリズム練習(P. 145~150)の組合せ

 【B】のタッチばかりで練習していては、昭和の時代に(悪い意味で)「毎日音楽コンクール」で点の取れた「指を高く・強く・速く」のような演奏になってしまいます。
 最終的にはP.149の譜例のようなリズム練習になるべきです。ただ、いきなりそこに行き着ける訳ではありません。様々な音色やバランス、強弱を駆使し、その後にルバートをかけたリズム練習が出来るようになる筈です。
 それ以前、何か曲中の難所に出くわしたら、最低限下記のような練習をしたら良いと思います。特に時間がない時の提案です。これは私自身が大学時代に思い付きから始め、実に効果がありました。特にチェルニー60番練習曲集を使ってメトロノームのテンポを目指すと、ショパンのエチュードがとても弾き易くなったものです。(当時、タッチの種類のアルファベットを付けた訳ではありません)

1. リズム練習の前に、【H】のタッチで肘を支点に投げて跳ね返す練習。
バスケのドリブルのように(決して「下げて上げる」ではなく、天井までも跳ね返るような1つの動きで)、ゆっくり1音ずつ肘から手を投げて跳ね返すだけで構いません。これで、瞬時に指関節が固定し、腕や手首は緩んでいる状態になれる筈です。
いきなり作品で行うことが困難な場合には、ハノン第21〜30番を【H】のタッチで練習すると良いです。特に移調です。Mollも含めて。ただ、余りに黒鍵から滑り落ちる場合には、その調性を【A】のタッチで先に練習すると【H】のタッチが楽になります。常に「急がば回れ」です。
その後で、最低限下記2〜4の「短縮ヴァージョン」をお勧めします。
  (数字はP.147のリズム変奏「ア」の例です)
 2.【A】のタッチで普通にゆっくり弾いた後、① ②のリズムで最初はゆっくり、徐々にテンポを可能な範囲で上げる。
 3.【B】は③ ④ ⑤ ⑥のリズムで、【A】と同様に指一本ずつ観察出来るテンポから可能な範囲へテンポアップ。
 4.【F】は⑦ ⑧ ⑨ ⑩のリズム。時間が無ければ⑦と⑧だけでも。

★ 勿論、ひとつのタッチを①〜⑫で練習する時間があれば、それに越したことはありません。「イ」の①〜⑨も同様です。
★ レガートの【C】【D】も又別な難しさがあります。リズム練習を通じ、より早く重力によるレガート奏法をマスター出来ると思います。但し最初は「指1本ずつ→隣接する2本ずつ」からです。その後、重力による強弱を付けられるところまで目指してみましょう。

 ところで上記Hanon(アノン)は、Wikipediaによると1819年に生まれ、1900年に亡くなっているそうです。来年で生誕200年になります。
 世間一般「1番から30番まで」と「スケールにアルペッジョ」ばかりやみくもに練習するイメージですが、他にも練習すべき音型は60番まで山ほどあり、しかも使い方によっては(つまり工夫次第では)充実した内容です。短所を挙げるなら、音群が16分音符4つずつばかり。3つずつ、6つずつという点では「ピアノのテクニック」を初歩のうちは学ぶべきと思います。
 ハノンも、他に作品が沢山あれば、来年記念して発表会でもしたいところですが…
 どなたか普通のピアノ作品をご存知でしたら、どうぞお教えください。


記載/2014年4月8日

★第V章 6.時間が取れない時の練習セット

よく「どのような練習をしたらよいのでしょう?」と質問を頂きます。
「それは十人十色」としかお答え出来ないのですが、それでは余りにお困りでしょう…と(直接レッスンをしている生徒たちでも、なかなか自分で考えられないようです)ここらで記載をしておきます。
けれどもその前に、どうして練習セットが必要なのか、よくお考えになってみてください。本には「時間が取れない時の」と添えましたが、時間が取れたとしても、マイナス方向に進む多さ…それは現在の「症状」を正直に見つめていないからではないか。まずそこをしっかり把握し、その原因を探る、そして「どのようにさらうか」。一度も医者に診てもらったことのない、という方は稀だと思うのです。自分が自分の診断を下し、治療するつもりになってみてください。
その上で話を進めます。以下、「症状」の例をランダムに挙げるところから話を進めます。

《 症状と原因と処方箋 》

  症状①:指が回らない
  原因:1本ずつ独立されていない
  処方箋: → 【B】でのハノンなどの教材
     それでも回らない
       → 手の構えを確認(手首ではなく、指の付け根が一番高いこと)
       → 【B】で1本ずつ&隣接する2本ずつ
     それでも更に回らない
       → 生まれつき強い指と弱い指を同じ回数ずつ練習しているからでは?
         もしくは第1関節がぐらついて、瞬発力を受け止められていない → 【A】
       → 可能になったら、ハノンではC-durのみならず黒鍵の入った調性
       → それも増2度の入る和声的短音階でもパーフェクトな動きで弾く
         (テンポはゆっくり、1本ずつの動きは限りなく素早く) 
       → ピシュナも並行

  症状②:音階やアルペッジョが均等に弾けない、もしくは第1指にアクセントが付く
  原因:第1指の柔軟性に欠けている
     それ以前に、第1指が第2〜第5指との90度違う動きをすることに意識が無い
  処方箋: → 手を握る動作で第1指とその他の指の動きの違いを確認
       → 第1指を折り曲げて第5指の付け根辺りが届くこと
         特に日常で意識する(つまりはピアノの前で行うには時間が勿体ない)
       → ピアノでは、第1指を折り畳んだ状態で2−3、2−3−4が力まず高く上がる練習
       → 三和音のアルペッジョのみならず、減7や属7のアルペッジョも
       → 属7では黒鍵から始まるアルペッジョも必要

  症状③:なだらかな表現が出来ず、出来ても表情に乏しい
  原因:感性を使わずに弾いている
  処方箋: → 曲想を自分の心や心象風景など具体化
  原因:指が素早く動きすぎる
       → 【C】で鍵盤への密着感を得る
       → 【D】で腕の重さのプラスマイナスと心を一致させる
       → 【C】【D】でも音階練習やハノンNr.1〜30からピックアップ

  症状④:テンポがあがらない
  原因:指のトレーニングが不足で手首を振って弾いている
  処方箋: → 正しい方向で時間をかける(希望するレベルによります)
  更なる原因:トレーニングの際に、どこかが力んでいる
  処方箋: → 本に書いた3つの方法以外にも、自分ならではの方法を工夫

  症状⑤:ワルツのリズムが出ない
  原因:3拍子に馴染みがない
  処方箋: → (本来はイヤほど聴いている筈ですが)3拍子の曲を意識して聴いて工夫
  更なる原因:左手の伴奏型のどのタクトも同じタッチで弾いている
       → 1拍目は腕の重さをかけて跳躍、2&3拍目は鍵盤を沈めるだけ(【M】のように)
       → 更に3拍目 < 2拍目という大袈裟な練習もしてみる。リズム変奏も。
  更なる原因:1拍目が第5指で、2&3拍目の最下音も第5指で弾いている
       → 無理のない限り違う指を設定

  症状⑥:機械的な演奏になる
  原因:常にregelmäßig(間隔が均等), gleichmäßig(音量が均等)
  処方箋: → 最初はそうあるべきですが、次の段階として自分の気持ちの揺れと共に、時代による大小こそあれ、自在に呼吸すること。但し、指の都合ではなく。

  症状⑦:余計な凹凸が出来る
  原因:片手練習の不足(曲にもよりますが、分相応の曲では片手ずつ20回テンポで弾けてから両手で)
  その他の原因:耳を使わずに惰性で弾いている
  処方箋: → まずは「全部の音が聞こえるテンポ」まで落として練習開始。それも区切って原因の指を探る
       → 少しずつテンポアップ。耳での判断と指が連係出来るよう

  症状⑧:音色の表現に乏しい
  原因:一足飛びな曲を弾きすぎている
  その他の原因:誤魔化しの曲ばかり弾いている
  処方箋: → 「基礎はやってやり過ぎることはない」「急がば回れ」
       → 「こんなにレベルダウン!?」から始めるべきです(ブルクミュラーやバイエル)

       症状⑨:9度が届かない
  原因:手が小さい、若しくは開かない
  処方箋: → 180°開いて9度で音列を(音が外れても)弾く。本のP.312のQ12、P.314のQ14を実践

  症状⑩:ペダルが下手
  処方箋:第VI章から実践してください

以上は本にも書いてあることですが、それらをふまえ、但し段階別に整理して次へ;

《 練習のワンセット 》

「指の基礎トレーニング」は大ピアニストであったとしても必須です。
趣味であっても毎日15〜30分、或いは3日に1回30分など、割く時間は環境や目的で違って構わないことです。ピアノを職業にしている人やピアノの道を目指す人なら毎日最低1時間、「継続は力なり」です。
「初歩の段階はクリアした」と放置しておくと逆戻りします。まして一旦マイナス方向に進んでしまった方達は尚更です。でも義務感よりも「進歩の実感」は実に楽しいものと思います。
練習開始時に入れなくとも、朝のほんの短い時間を充てる、頭を使う練習で疲れた頃に入れる、或いは練習中の作品の難所とチェルニー60番のピックアップと結びつけるなど、工夫することに行き着きます。

例を挙げます。その前に…
幼いお子さんが初めてピアノに触れる場合には、「楽しい存在の楽器」であることを教えなくてはなりませんが、やはり指の基礎を磨くことは「毎日の歯磨き・洗顔・入浴と同じ存在」と教え、まずは正しい手の構えと指の押し下げ方を何ヶ月もかけて扱います(10〜15分)。結果としてそれはタッチ【C】になります。1年位経って次に教えるのは【B】で、【A】は数年後です。この辺りになると、指の練習だけでもレッスンは30分費やします。【G】や【H】はstaccatoのメロディを弾かせるために、もっと早く教えます。勿論タッチの種類としては指導しません。結局幼稚園生でも小学校低学年生でも、週1回のレッスンであれば1時間半かかってしまいます。

以下の「例」は、あくまでも「例」であり、他にも無数にあると思います。ご自分の症状と向きあい、どうかお考えください。

例1(全て片手ずつです)
・ 【A】と【B】で指の分離:指1本ずつ10回、隣接する2本を交互に10回(但し、3−4や4−5、3-4-5が苦手な場合は20回)、その後ハノンNr.1〜20のどれかを1オクターブだけで可。(【B】では3−4−5と続く時の3について、自然なカーブで出来るだけ高く、と注視しながら)
・ 音階:右手上昇、左手下降の折には「第1指をすばやく中にたたむ」と同時に2−3、2−3−4は高く(タッチは【B】でテンポは甚だ遅く、1本ずつの指の動作は極力速く)
・ 固い手首をほぐすために【G】及び【H】(楽に届く音程で。例えばハノンNr.48)
・ 【C】と【D】でハノンNr.1〜20のどれかを強弱付きで

以下は例1を少しずつ難しく変形

例2
・ 【A】と【B】で指の分離:例1の全て。ハノン(Nr.1〜20)は最後にテンポアップ。その際、手首の回転を使い、指は特に高く上げることはせずに「均等さ」をよく聴く。移調も行う(和声的短音階も)。
・ 音階:【B】で出来るだけ多くの調性。同様の事柄に気を付けてテンポアップ。
・ アルペッジョ:ハノンNr.41の三和音(フィンガリングでパターン分けして)。第1指は折り畳んでも第2,3指は高く上がること
・ 【C】と【D】:ハノンNr.1〜20で、移調も。しかもテンポアップでも可能にする。並行してバッハのインヴェンションやブルクミュラー25の練習曲を使い、美しいレガートを表現できるよう。又、左右の手がポリフォニックに、違う表情を付けられるように。

例3
・ 【A】と【B】で指の分離:ハノンはNr.21〜30。且つ【A】と【B】の間に【G】を加える。瞬時の指の定着をマスターするためです。特に移調した折の黒鍵は滑り落ちやすいので指の形を確認する。
・ 音階:【B】のみならず【C】と【D】でも弾けること(表情豊かなパッセージのために)
・ アルペッジョ:チェルニー30番練習曲の第15番と40番練習曲の第12番、それにハノンNr.42の減7を加える。(注意点は例2と同様に)
・ チェルニー30番練習曲を使って、1つの腕の重さの中に細かい音群を入れて弾く習慣をつける。

例4
・【A】と【B】で指の分離:ハノンに加え、ピシュナのNr.1〜9
・ アルペッジョ:ハノンNr.43の属7も。しかも黒鍵から始まる属7も加える(楽譜にはないですが)。応用が利くように、チェルニー40番練習曲のNr.39、ショパンのエチュードOp.10/8を加える。
(第1指の折りたたみと、2−3−4を高く上げることに集中)
・ 【C】と【D】:速めのパッセージであっても表情豊かに弾けるよう

例5
・ 【A】と【B】で指の分離:ハノン、ピシュナ、その他チェルニー60番練習曲などから重音を加える
・ 音階・アルペッジョ:基礎はハノンでテンポアップ、音量アップ
・ 【C】と【D】:バッハのインヴェンションの中から、なだらかに弾きたいものを必ず入れる

例6以降
・ 例5までの事柄に加え、モーツァルトの美しいパッセージ、ハイドンのキリッとしたパッセージ、ベートーヴェンの華やかなパッセージを弾き分けられるように、一部を取り出して練習に加える。
・ 練習中の曲中の難所に必要な指の動きを、「大は小を兼ねる」ということでチェルニー60番練習曲からピックアップ。例えば保持音付きでピシュナよりも難しい練習を必要とする時にはNr.10やNr.18(両手で同じ動きを弾く)でメトロノームの新記録更新をする、「喜びの島」のためにNr.20、ベートーヴェンによくあるトリラーが長い保持音で同時に同じ手でメロデイを弾くにはNr.49、重音の3度や6度で難しいパッセージを弾くショパンなどでは、ショパンのOp.25/6, 8も良いですが、その前に60番チェルニーを使い、Nr.21やNr.59でメトロノームの新記録を作る usw…… 必要に応じて選んでください。純粋に粒を揃えて「強く・速く」と練習出来ることが有難いです存在です。指作りに繋がります。
・ 【C】と【D】:3声シンフォニアでも可能にする。シンフォニアの中には平均律の易しめのフーガより難しいものは多く、「やってやり過ぎることはない」です。(寧ろ【B】で弾く方が簡単ですね。国際コンクールという舞台で痛感しました)


以下略。
限りなく「弾きたい作品への最短距離」の工夫です。
取り敢えず急いでこれだけ書きましたが、「創意工夫」「試行錯誤」です。例は挙げ出せば100以上に及ぶ、と思って頂けましたら幸いです。













トップへ戻る