第IX章
アンサンブル


記載 / 2015年07月12日

ピアノでオーケストラを模倣する【その2】

オーケストラパートのアレンジを工夫する、という前回の続きです。
5月23日と6月7日に分けて行った勉強会のレジュメから、書き抜きます。

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 ピアノを学びますと(プロであれアマチュアであれ)、他楽器のコンチェルトやオペラアリアの伴奏を頼まれる機会が多いと思います。又ピアノコンチェルトを弾くこともあります。オーケストラとの共演は稀であっても、オーケストラがピアノにアレンジされたものを2台で弾くことはよくあります。
 『ピアノと向きあう』第256ページ「原曲がオーケストラ伴奏の場合」をご参照ください。
 (「伴奏」という言葉は好きではありませんが、他に相応しい単語が見つからないので「伴奏」で通します)
 いずれも伴奏にあたって、ピアノ譜は「最低限この音だけは弾いてください」というような市販の楽譜を渡されると思います。それでも構わないのですが、そのまま弾けば物足りなさは否めません。その版のまま弾くにしても「如何に弾いたらオーケストラらしく響くか」ということが問題になります。つまり、どのラインを出すか、どの音を強調するか、また、木管や金管がそれぞれの楽器らしく聞こえる音を出すためのタッチにも工夫を要します。ソロパートを弾くにしても、オケパートをどのように弾いて欲しい、ということを思い付く位、伴奏を知り尽くしているべきです。
 今回のシューマンのピアノコンチェルトは恰好の素材です。
伴奏パートも、「I. ソロと共に弾く箇所」と「II. 間奏としてのTutti部分」に分けられます。前者は、『ピアノと向きあう』第284ページからをお読みになっておいてください。
 今回は先ず後者「II. 間奏としてのTutti部分」から扱います。
問題にするのは、ソロパートが華々しく弾く合間のTuttiが、突然「しょぼくれて聞こえる」ことです。譜面通りの音を並べるだけでは勿論そうなります。前にも書きましたが、本番がオーケストラとの共演で、その為の練習ピアノの場合は構いません。でも演奏会でオーケストラの代理としての第2ピアノの場合にはどうでしょうか。

 けれども!!いきなりシューマンというのも難しいのではないか、「急がば回れ」と思い直し、古典派の易しい曲で(決して「易しい曲」という曲は無いのですが、音の数をシューマンと比較して)、「スコアリーディング」「オーケストレーション」も含めた「アレンジ」から始めたいと思います。
 部屋のスペースの都合から2組に分けまして、5月23日は、ベートーヴェンの「オーケストラとヴァイオリンのためのロマンス F-dur Op.50」第1〜49小節、6月7日のグループは同じ曲の第33〜72小節を、先ずアレンジ作業して頂きます。

順番は;
① ピアノにアレンジされたコピーをお渡しします(Henle版、ピアノアレンジはJürgen Sommerによるもの)。音源を聴きながら、そのピアノ譜に書かれていない音をピアノ譜に書き込む。(音源は必要に応じた回数を再生します)
② スコアのコピーをお渡ししますので、書き込んだ音を確認。
③ 果たしてそれを自分の10本の指で弾けるかどうか、又響きが相応しいかどうかピアノで確認。残念ながらソリストは居ませんので、交代でヴァイオリンパートをもう1台のピアノで弾いてください。
④ 「自分用の決定ヴァージョン」を作る。

 その後で、SchumannのピアノコンチェルトのTuttiの部分を、上のBeethovenの「ロマンス」と同じような作業要領で手直ししてください。全部を扱いますと膨大な時間になりますので、時間と相談して決めましょう。

 ソロパートも練習なさっておられると思いますが、多分時間も押していることでしょう・・・1箇所ずつ(長くても短くても)まずソロパートだけ、その次にどなたか伴奏者をご指名の上、共演。

 今年は暫く、このような作業を勉強会にも取り入れたいと思います。それだけに尽きる、ということでは決してありません。

記載 / 2015年07月11日

「ピアノと向きあう」第IX章より 2.器楽の伴奏
________________
(3月22日の勉強会で配布したレジュメより)
ピアノでオーケストラを模倣する【その1】

◆原曲がオーケストラ伴奏の場合
今後、暫く扱いたい上記テーマの教材としてのシューマンのピアノコンチェルトです。
フルオーケストラ全ての音を10本の指で弾くことは不可能ですが、出来るだけ響きを近付けたいものです。それには?という工夫です。特に2台のピアノでステージで演奏する時、譜面の伴奏パートを鵜呑みにしないで、という工夫。
オーケストラパートをピアノでどのように弾くか、ということを通じて、逆にオーケストレーションやそれぞれの楽器の特性を考えてオーケストラらしく弾く工夫を通じ、タッチや表現を工夫する習慣が付くと思うのです。

ついでながら、シューマンはこの第一楽章の音型と言いますかメロディと言いますか、階名での「ドーシーララーー ラシド」、Durでは「ミーーレーードドーー ドレミ」が余程気に入ったと見え、第2テーマと名付けたい部分にも展開部にも散りばめられています。

さて、オケパートの話でした。
第41小節目から(Bのアウフタクトから)のオーケストラは下の通りです。

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ソリストは間奏の小節数を数えて待っている訳ではありませんね。最低限流れの中で音は把握していなくてはなりません。その程度なら、ヘンレ版のアレンジで充分でしょう。「間奏を覚える」レベルです。

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このレベルのアレンジは、本番がオーケストラの共演で、その為の下稽古なら充分かもしれません。
でもこれをオーケストラの代用としてステージの第2ピアノで弾くには余りに音がまばらです。さりとて、下の全音版の第2ピアノ(Aのアウフタクトからの16分音符です)は「無駄な抵抗」「無駄な練習時間」!

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ペータース版は以下

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とても良いと思われます。ただし弾き方に工夫は要します。それは音を伴わないと説明がややこしいので割愛しますが、一応スコアでご確認ください。その折には、「移調楽器の知識」や、「コントラバスが表記された音より1オクターブ下の音が鳴る」ことなど、楽器の基礎は知った上で。
これに金管の音を少し加えられたら最高です。
ともあれ、オーケストラスコアを見て、音源でオーケストラを聴き、音を書き込むことです。

もう1箇所見てみましょう。
第85小節からです。まずはオーケストラスコア。
見えないので、現物をご覧ください。
Gからです。
   写真

ピアノ用アレンジは、ヘンレ版もペータース版も殆ど同じ。

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楽ではありますが、肝心のシンコペーションはどこへ行った??

全音版を見ます。

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なかなか良いではないですか!但し、コントラバスの1オクターブ低い実音が欲しい。さりとて和音も欲しい。指が足りないので、妥協策として左手をそのままオクターブ下げるという方法も可能です。やる気があれば、左手はバスの音を1オクターブ下げてオクターブで弾き、右手のオクターブに和音を加えることも出来ます。

といった事を、今後皆さまで少しずつ分担してコンチェルトの伴奏を通じ、ピアノ演奏にも活かして頂けたら、と考えています。

今回、Aさんのレッスンで伴奏をした折、「これは他の皆さまにも是非やって頂きたいことだ!」と直ぐに思い付いてしまう相変わらずの頭です。決して足並みを揃える訳ではありませんが、経験して頂きたいことは勉強会で今後も扱いたく思います。
音源から書き取る方法もあります。その上でオーケストラスコアを確認するという順番です。

「逆模倣」もあります。
良い例が、勉強会でBさんとCさんが弾かれるDebussyによるPetite Suite。勉強会のプログラムと重複しますが、オーケストラに編曲されたものの方が有名になった昨今、オケの音を聴くことで、「ピアノという楽器では伸びない音」を如何に工夫するか、バランスを整理するか、ペダリングの駆使、等々。より豊かな連弾曲に仕上がる筈です。

今日はここまで記しておきます。
         (2015年3月22日)


記載 / 2015年07月07日
★「ピアノと向きあう」第IX章 ショーソン《詩曲》第256ページ〜第258ページ

譜例を4箇所のみ載せましたが、実際にどのような響きになるのかを読み取るのは難しいと思います。
ピアノにアレンジされた(市販の)楽譜をお持ちの方は、下記のCDをご購入の上、ショーソン《詩曲》をお聴き頂けましたら幸いです。
『フランス派 ヴァイオリン曲集』Vl.小森文子 Pf.及びArr.奥千絵子

記載 / 2013年09月27日
★「ピアノと向きあう」第XI章 アンサンブル 3.ピアノ同士のアンサンブル(第259ページ〜) 

モーツァルトKV488第2楽章を使った2台アンサンブルの勉強会(9月15日)のレジュメの一部分を載せておきます

*********************************
どのように進行したら重要事項に的を絞れるだろうか、と考えました。
次の1)〜VIII)は1つの事柄の裏表でもありますが、分けてみます。

《 本日の課題 》
I) ゆったり歌える II)微妙なアゴーギク III)フレージングを考える IV)相手の音を知り尽くす V)バランスを整える VI)音色  VII)アーティキュレーションを揃える  VIII)その他  詳細後述※

第2楽章はほんの117小節ですが、今回は5つの段落に区切り(必ずしも音楽的な区切りではなく。しかも最後と次は重ね合わせます。下記参照)、弾き手1組ずつが1つの段落で上記をじっくり実践することにしました。(時間が許せば2組以上でも勿論!)

・第1小節〜35小節(Cの4小節前頭)
・第12小節(A)〜第48小節(2番括弧)
・第36小節(Dの4小節前)〜第71小節(再現部)
・第64小節(F)〜第98小節(Iの1小節前)
・第82小節(G)〜終わり
☆その後で、1組ずつ第2楽章全体を通奏。必要次第で更に追究
※を具体的に皆さんで実演(記載は僅かです)
(今日は、本の第263ページに書いたように、便宜上第1ピアノ右手を①、左手を②、第2ピアノ右手を③、左手を④として進めます)

I) ゆったり歌える
  明らかに片方が主旋律を弾く箇所では、練習時に旋律を声に出して歌う。うまく行かない時には何か歌詞(単語でも)を当て嵌めてみる。伴奏パートを弾く際にも、旋律を声に出して歌いながら相手の歌い回しの可能性を予測してみる。
前回行った第1楽章での「弦楽器だったら?」のみならず、「メロディにどのような歌詞が付くか?」という工夫。
ドイツ系の音楽にアウフタクトが多いのは、言わんとする大切な言葉は倒置されることが多く、それには前置詞や冠詞が付く。1拍目にはメインの単語を置くので前置詞や冠詞はアウフタクトになる。英語でも同様ですが、ドイツ語に比べれば倒置は少ないです。
アウフタクト無しで1拍目に大切な単語を置く時、というのは、命令形であったり感嘆詞や呼びかけ、或いは冠詞のない名詞であったり…等々。
例えば、第2楽章冒頭に「Sag mir doch mein liebes Kind(命令形)」は相応しいですが、「Mit dem(前置詞+冠詞)…」と始まることは無いと思います。

II) 微妙なAgogik(アゴーギク)
アゴーギクは伴奏が主導権を握ることもあります。つまり「旋律を扱うパートが自由に歌えるように伴奏をする」という助け、共演です。
うまく掴めない場合には - 極端な例ですが、もしこの第2楽章が「ショパンのノクターンだったら?」「バッハの舞曲だったら?」と、時代・様式を変えて弾いてみてからモーツァルトに戻す方法もあります。

III) フレージングを考える
休符の無い箇所でもブレスを考える。逆に長いフレージングも考える。その際にはブレスせずに歌える長さも考慮する。ブレスをするには、ここでも「II微妙なアゴーギク」が必要となることもあります。
フレージングによってAndanteの速さがどの位であるか、ヒントになります。テンポは人によって感じ方が違いますから、一応二人で打ち合わせも必要です。

IV)相手の音を知り尽くす
本来はこれがI)に来るべきでした。第13〜20小節は一人が両パートのメロディとバスを(①と④、②と③)、もう一人が②と④の伴奏型(アルベルティバス)を。又組合せを替えて一人がずっと①と③メロデイのみを(両手を使って)、もう一人がバスとアルベルティバスを(②と④)両手で分けて、等。

V) バランスを整える
冒頭を一人で練習する時には、どちらのパートの人も①と③を弾き、テンポの揺れのみならず、より良いバランスを工夫する。IV)と重複しますが、お互いの声部を隅々まで聴き取れるために、声部を入れ換えて弾いてみる。第1ピアノと第2ピアノを、ということもありますし、例えば第64〜70小節までは①と④を一人が、②と③を一人が、というように弾いて(互いに入れ替えも)、どのようなバランスが好ましいか相手の音に耳を傾ける。冒頭のテーマもです。
途中度々出てくるsf、どの程度出したらその箇所の曲想に相応しいか(第21〜35小節、第49〜60小節)、無くては困りますが。

VI) 音色
具体的なタッチ(【A】〜【R】と結びつけて)

VII) アーティキュレーションを揃える
これは説明済みなので実践。この際にも4本の手(①〜④)の置き換えで練習してみます。

VIII) その他
この曲に限りませんが、アンサンブルでは「縦のラインを合わせる」ということが基本にあり、それを最も重んじる演奏家もいますが、今回は「自由さ」と「上記の細かい事柄」を優先させ、自ずと縦のラインが合う、という方向付けを考えています。尤も冒頭は二人で合図のやり方を決めてください。(2台をかみ合わせた配置を想定し、頭の動きと呼吸音で。他にも方法があれば考えてください)
- スペース無くなり、ここでストップさせます -
実際の勉強会では扱えずに時間切れとなった項目もあります(I, II, III, IV, V, VIIメインとなりました)



記載 / 2013年09月26日
★「ピアノと向きあう」第XI章 アンサンブル 3.ピアノ同士のアンサンブル(第259ページ〜) 

又してもモーツァルトKV448の続きです。第2楽章に進みます
執拗ながら「前打音」の弾き方です。下の方に第1楽章での前打音を、ディヴェルティメントでの前打音を引用して説明しました。
第2楽章の次の部分(写真はクリックで拡大ください)
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(私たちの世代が1950〜1960年代に使った楽譜は、この類しかありませんでした)
この譜面を見ると、斜線の付いた前打音は鋭く弾きたくなります。

では、次の譜面はどうでしょう。HenleやBärenreiterの原典版から同じ箇所です。
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(©Henle471)

16分音符で書かれた前打音は、勿論鋭く弾いても、16分音符で弾いても間違いとは言えません。
ただ、ディヴェルティメントの例を思い出せば、8分音符で弾くことも選択肢にありますね?
しかも8分音符であれば第1ピアノと第2ピアノが同じ長さで弾くことになり、3度音程で美しく溶け合うのではないか。私自身はこの3つ目の8分音符が好きです。
それではどうしてモーツァルトが同じ書き方をしなかったのか??
・前打音で書いた音を強調したかった(アウフタクトの次のフレーズの始まりとして。それと3度音程の上の音として)
・フレーズ終わりの2つの8分音符は特に強調する音型ではないので、普通の8分音符として区別した

解釈や理論は色々あると思います。実際に弾いてみて、二人の呼吸やイントネーション、アーティキュレーション、一番表現し易いものを選んだらよろしいのではないか、と…


記載 / 2013年07月19日
★「ピアノと向きあう」第XI章 アンサンブル 3.ピアノ同士のアンサンブル(第259ページ〜) 

モーツァルトKV448の続きです。
具体的な点に少しずつ触れていきます。

・二人で作る長いcresc.(第49〜56小節)
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©Henle Verlag471

ここでは、右手の練習に気を取られがちですが、全体のcresc.を作るのは寧ろバスです(後打ちの8分音符よりも)。
このページの最初にはp(ピアノ)と書かれていますが、ピアニッシモくらいのつもりで軽やかさを互い違いに味わい楽しみます。右手の上昇形の音階もですが、左のバス音もどのくらい互いに鳴っているか耳を澄ませ、譜面にcrescendoと書かれたあたりは、推察するに一人でバスを弾いた方がcrescが一気に利くのではないか、というモーツァルトの意図ではないか?
なので、第53小節のバスより第54小節のバスの方を響かせ、そのまま左手はあたかもチェロとバスのようにオクターブとなる。これも意図的であって、弦楽奏者の弾き方を想像してみましょう。16分音符については本(ピアノと向きあう)に具体例を書いたので省略。

・シンコペーション
第56小節からの右手のシンコペーションをどう扱うか、という点。
これも、ディヴェルティメントを引用します。

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©Bärenreiter Urtext

この低音部(VlaとBass)のような形はよくあり、高音に使われる場合はまた解釈の分かれるところでしょうが、KV448では(楽譜は省略しますが)第60小節の第2ピアノの頂点の音に至るまで上昇を続けるので、輪郭は第1ピアノのスタッカート的な和音が描き、第2ピアノはそれをエコーがけることも可能、或いは追い打ちをかけるように徐々に(第1ピアノよりも)cresc.をかけていくことも面白いと思います。頂点は第2ピアノのこともあり。
(つづく)


記載 / 2013年07月18日
★「ピアノと向きあう」第XI章 アンサンブル 3.ピアノ同士のアンサンブル(第259ページ〜) 

第IX章では「アンサンブル」を取り上げ、その一例としてモーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ」KV448を例に取り上げました。
その更なる参考として、モーツァルトのディヴェルティメントKV136も取り上げました。
けれども、それ以前の課題と言いますか、問題提起を頂戴致します。
関連事項はブログでも取り上げましたので、そちらもどうぞお読みください。
http://allegrobunchan.blog18.fc2.com/blog-entry-890.html
http://allegrobunchan.blog18.fc2.com/blog-entry-891.html


ここでは、もう一歩下がったところから、話をしたいと思います。

「モーツァルトらしさ」です。
誰しも得手不得手があります。
技術的な面から「モーツァルトを弾くためのタッチを持ち合わせていない」
音楽的な面から「モーツァルトの音楽に余り触れたことがない」
前者で、もしモーツァルトが好きで好きで、という場合には、おそらくこの本の「タッチの種類」が助けになると思います。
後者の場合は、ともかく聴く、弾く。更に大人の場合や、ピアノ歴が長い場合には「オペラ」「歌曲」「弦楽器(交響曲やコンチェルトを含む)」のための作品を聴くことです。

この、後者のケースを想定し、今年の7月7日に、我が生徒たちの「勉強会」を行いました。
その時のレジュメを貼り付けてもよいのですが、日頃私のいい加減な文章に接していらっしゃらない方には補いも必要ですし、譜面に書き込んだ私の走り書きは判読不可能でしょう、と、順を改めて説明を書きます。

譜例はデジカメで撮りましたが、著作権はKV448はHenle版に、KV136はBärenreiterにあります。
(手書きで書き写すか、パソコンで打ち直そうか、と思ったのですが、著作権を記しておけば問題がないとのこと。何より読みやすいことが一番です)

書き始めて気付きました。
これはモーツァルトのアンサンブル以前の問題ではなくアンサンブルの問題のこともあります。

でも、それらの問題点と説明を先ずは箇条書きにしておきます。

◎ソロのソナタでは余り問題にならないのですが、このKV448でのバスの弾き方
右手の都合で(旋律をつなげたい)、部分的にペダルを踏んでしまいがちな第5〜8小節の左手。その為に左手の8分音符の同音連打がモーツァルトらしくなくなるケースが多いです。

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KV136のバスそのものを模倣してみましょう。何度も聴いて(良い音源を)バスが8分音符をどのように弾いているか、耳に焼き付けて真似をします。

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自ずとペダルは踏まずに弾けることと思います。右手はフィンガリングと腕の重さの使い方で解決がつきます。
モーツァルトの場合は、ピアノ曲であっても有難いことにヴァイオリンスラー(=アーティキュレーションスラー)が書き込まれています。
スラーは1つの重さ、2音間にかかるスラーの最初は重さがかかる、2音目は重さが抜ける、とでも例えたら分かりやすいですか?

◎アーティキュレーションスラー
長い連続したスラーに話を移します。
モーツァルトの場合のスラーは、ピアノ曲であってもヴァイオリンスラー(=アーティキュレーションスラー)が書き込まれています。
16分音符の連続でも、弦楽器ではスラーがかかっている時には1弓で、ピアノの場合では腕〜指の重さを使って(【C】や【D】のタッチ)、つまりどの位かけたり抜いたりするかによって表情を付ける。スラーの切れ目は重さの切れ目。弦楽器でスラーが無い場合は1音ずつ弓を返す。ピアノでは【B】のタッチで弾けばよい。さりとて全部が同じ音量ではなく、勿論表情は付けます。
この辺りは、曲を沢山聴くことに行き着きます。「どういう時に?」と問われても、いくつか例を弾くことはできても、感性の問題と言えそうです。感性を養うことです。

◎関連することですが、KV448冒頭第3~4小節目の付点音符の弾き方
私の本には、「可能な」アーティキュレーションを列挙してみました。全く「場合の数」もどきの可能性を、です。
いずれも「間違い」ではありません。けれども音量の微調整は必要です。切り方の長さも譜面に書き込むことは不可能です。
ただ、真似出来るKV136の部分はあります。これも何通りもの弾き方がある訳で、「気に入った切り方」を模倣すればよいのではないでしょうか。

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◎装飾音
・よく「上の音からですか?」「その音からですか?」と訊かれます。「自分の弾き方に合った方」「耳に心地良い方」としかお答え出来ませんが、詳しい「装飾音」については「ピアノと向きあう」の第VII章「楽譜の文法事項」の「3」に第195ページから201ページまで書きましたので、そちらもお読みください。お答えとさせて頂きます。
・前打音も同様です。しかも長さの選択肢があります。
例えばKV448の第1楽章第2テーマ

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古い版では、第1ピアノの前打音には斜線に入った8分音符、第2ピアノの前打音は普通の8分音符で書かれているものが多いのですが、今は原典版が主流になり、前打音は殆ど全て16分音符のこの記譜法です。
これをどの様に弾くか。これも好みです。
「斜線入りの様に短く弾く」「8分音符で分ける」「3連符くらいの鋭さにする」など・・趣味の問題です。
けれども、いずれの場合も「倚音」であることには変わりなく、前打音の方を少し強調するほうが好ましい。
又、第40小節は階名では「ミレド」です。「ミレード」となるよりは、ここだけは等分割して「ミレド」が好ましく思えます(私の趣味では)。
・それから原典版で第1ピアノと第2ピアノを眺めると、同じ16分音符で書かれています。これも、眺めた感覚としては同じ鋭さもあり得る。けれども決して第1ピアノを8分音符で等分割しないよう…(これも趣味の問題??)
・この第2テーマは、再現部では第1ピアノと第2ピアノが交替します。プロの演奏であっても、それぞれが好き放題に弾いているケースに出くわすことがありますが、これはやはり相談の上統一すべきでしょう。

・もっと長く弾ける前打音も同様です。
KV136のこれらの部分に耳を傾け、同じ小節内であっても弾き方(長さも)を変えていること、やはり「耳に自然に」ということになるでしょう。

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・後打音
古典派の曲で、ドミナントの上の長いトリラーの後に後打音が書いてあります。書いてある場合はよいのです。問題は書いていない場合です。「ドミナント」から「トニカ」に解決するのだ、という意図を出したい場合は付けて構いません、いや、付けた方が良いです。
もうひとつよく訊かれる質問、「後打音は左のどの音に合わせたら良いのですか?」
・・・
・・・
いや、左手に合わせるのではなく、弾いてきたトリラーのテンポで弾けばよろしい!としか言えません。

例えばKV448の第72小節

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そもそも冒頭も後打音ですね。

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これらを書かれた通りのピタリと正確な16分音符で弾いてしまっては美しくありません。

美しくありません、と言えば、第69,70小節の最後のトリラー。フィンガリングや括弧で書かれた臨時記号から推測すれば当然入れます。けれども、折角軽快なテンポで弾いていたのが、この後打音が為に台無しになる場合は入れずにトリラーを2回入れるだけでも構わないと思います。

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後打音を弾く場合には、KV136のこの部分のように「あるのか無いのか聴き取れないほど美しく!」

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まだまだありますが、取りあえずここで一旦区切ります。
まだまだモーツァルトの前置きです。

____________________
前述の「勉強会」のレジュメより、該当部分のみ貼り付けておきます(後で整理して、と思うとおそらく放棄)。
内容は重複していることもあります。

        [Divertimentoの鑑賞]
モーツァルトの2台ソナタですが、その前に同じD-durのディヴェルティメント第1楽章(Allegro)を聴いて頂きます。この2台ソナタに限らず、モーツァルトのピアノ曲に於ける諸問題の参考にして頂きたいと思います。(今後、第2、3楽章でも鑑賞を先に)

補足:この曲を含むKV 136〜138の3つのディヴェルティメントは、1772年にザルツブルクで書かれ、長くSalzburger Symphonieと言われました。現在は室内楽の「弦楽四重奏曲」にカテゴライズされ、少し編成を大きくしても室内オーケストラのための作品、という扱いです 。Bassoはこの曲に関してはコントラバスで、括弧の中は「チェロと」の意味です。チェロはこの記譜音、コントラバスの実音は1オクターブ下になります。ですからチェロと共に弾けばバスパートの実音は常にオクターブで弾いていることになります。(チェロが入った場合には多少の変更も臨機応変で行われることもあります)

        [鑑賞にあたって]
① ボウイングとピアノでのタッチの類似点、前打音(アクセントの代用か、解決を求める倚音か、解釈次第で長さの可能性は広いです)や後打音の弾き方(入れるか入れないか)、また特に書き込みませんでしたがバスの奏法の工夫。特に八分音符の同音連打は参考になります。

②聴きながら今度は逆に2台のピアノソナタを軽くオーケストレーションし、以下の点について意識してください。
*バランス
*ボウイングの模倣(コピー譜書き込みを参考にしてください )
*横の流れ(バスと主旋律の輪郭だけを互いに弾いてみる)
*潜んだ対旋律
*「モーツァルトらしさ」を考える。

当時のピアノという楽器の音色が今とは全く異なるにも拘わらず、美しい旋律線に充ち、音色も表情も豊かに弾きたくなります。ピアノ曲に於いても、アーティキュレーションスラーを弦楽器の記譜法にて具体的に書いていることも、インタープリテーションのし易さだと思います。オペラアリアや歌曲のように歌うことも出来ます。主旋律は声やヴァイオリンのように表現できます。

        [具体的な弾き方]
旋律の弾き方はコピー譜空欄に書いたタッチ3つ、また伴奏型もタッチの種類で整理出来ますが、まずは弦楽器を模倣することを考えたいです。
コピー譜にも書き込みましたが、ボウイングの1弓での起伏は【C】や【D】のタッチを使って重さのかけ方、抜き方、1音ずつ返す弓使いの時には【B】でグラデーションを付ける。それもモーツァルトらしさを失わない範囲、且つ美しい音で。ただ打つ、投げる、ではなく腕の重さを使い分け、指1本ずつの筋力も使って表情を付ける。

  表現に於いて、ヴィヴラートの利かないピアノという楽器ではどうしたらよいのか。最小限のペダリングで補うこともできます。

        [アンサンブル(ピアノに限らず)]
今回はアンサンブルへの導入としての扱いも兼ねます。
つまり相手の音を聴きながら弾く、反応する、の反復です。
弦楽器とのアンサンブルでは、模倣しなくてはならない課題が山積みです。弦ではcresc.も利く長い音符:伴奏で補ったり、次の音の強さをコントロールするなど。
思い付く範囲でいくつか列挙します。

* 舞台で弾く時には、相手の音に消されているのではないか、とガンガン鳴らすケースもよくあるのですが、自分の音は鳴っている、聞こえている、と冷静になることも必要です。寧ろモーツァルトなどは「美しい弱音の出し比べ」「起伏の付け比べ」とでも言える楽しさがあります。もっと反応しよう、の連続です。(本当のステージでは、バランスなどを第三者に意見を求めます)

* 逆に、プロの演奏会でも「?」がよくあります。互いに最低限統一すべき諸事がバラバラ。例えば今回の曲で挙げれば、第2テーマ、装飾音の入れ方が第1ピアノ(提示部)と第2ピアノ(再現部)で違うケース、交互に弾いて長いcresc.を表現したいところで、各自のcresc.に留まっている、など。

* バスと主旋律で輪郭を描く。自分が担当している主旋律とバスだけ弾いて相手の音を聴き、流れを知る。

* 展開部冒頭のようなポリフォニックな箇所では、フーガのようにそれぞれの手のバランスや起伏を整理する。

        (つづく)











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